市立札幌南定時制高校~出張講義2025


2025年12月17日、市立札幌南定時制高校にて、出張講義「妊娠と出産、医療現場の現実を知る」を実施しました。受講者は全員が3年生──進路決定の直前にいる生徒たちでした。シミュレータと映像を通じた講義を、卒業を数か月後に控えた時期に受け取ってもらった半日です。

3年生に向けた講義という設計

高1・高2向けの講義が「種をまく」性格なら、3年生向けは進路の「最終確認」に近い性格を帯びます。進路がすでに決まっている生徒も多く、アンケートの言葉が「これからの想像」から「すでに描いた進路の補強」へと傾きます。

「将来、助産師になることが夢であり、来年から看護学校に通うので、今日の体験がためになる日がくることを楽しみにします」

「やはりAIが進化している中、医療士はびくともしないみたいだなと思いました。すごくかっこいい職業だと思います」

**「AIが進化しても、医療職は揺るがない」**という3年生ならではの時事感覚が混ざっていたのも印象的でした。進路を選ぶ直前に、職業の未来性まで一度言語化して納得しておく──そんな「最終確認」の要素がアンケートから透けて見えました。

命が生まれる瞬間の、身体の実感

講義で最も印象に残ったと書かれていたのが、分娩シミュレータでした。

「分娩シミュレータで赤ちゃんが回転して、無事に生まれた瞬間感動的でした」

「お母さんもがんばりして大変で、赤ちゃんて、体を回転させながら、出たりして、命がうまれる瞬間は本当にすげえんだなと思いました」

妊婦体験ベストに対する驚きも繰り返し出てきました。

「妊婦体験ベストが思っていたより本当に重くて衝撃でした」

「分娩の赤ちゃんが意外と重くて驚きました。実際はこれよりもう少し重いのかな?」

知識として「妊婦の体は重くなる」と知っていることと、実際に重量を腹側に背負うことの違いを、生徒が身体で腑に落とす。その驚きが母親や姉妹への感謝に接続する筋道が、何人ものアンケートで繰り返し現れていました。

帝王切開は「最後の手段」ではない

札幌南2025のアンケートで特徴的だったのは、帝王切開に対する認識の変化を書いた生徒の多さでした。

「帝王切開の数が増えていることを知り、自然分娩でなくても、一人前であること」

「日本の文化で、下から生むのが当然という考えがあるけど、帝王切開だって何も悪いことではないなと自分の考えが変わりました」

「自然分娩が本物・帝王切開は例外」という素朴な二分法は、まだ根強く残っています。生徒が、この二分法を**「自然分娩でなくても、一人前である」**という自分の言葉で書き換えてくれたことは、講義の核心がきちんと届いたことを示していました。当事者性の強い声もありました。

「私は双子なので、とてもリスクがある出産だったんだと実感しました」

自分自身の誕生や、身近な家族の出産の実態を、講義を経由して立体的に捉え直せた──旭丘2025でも見えた筋道が、ここでも繰り返し立ち上がっていました。

家族の世代交代が視野に入る年齢

3年生の感謝の言葉は、1・2年生のそれとは少し角度が違いました。

「私のお母さんは、私を含めて、5人うんでいて、5回も出産をしていて、すごいしか言葉ができません!!」

「私の姉がもうすぐ第3の子を生むので、よりかんしゃして、姉を助けたいと感じました」

「兄弟と年が離れていて、おいっめいがいるので、姉や母がとてもすごいなと感じました」

3年生は、母の年齢に姉が近づき、自分がおばになり、というかたちで家族の世代交代が視野に入り始める年齢です。親・姉・母の「凄さ」を、遠い話ではなく、自分が数年後に引き受けるかもしれない実務として感じているニュアンスが滲み出ていました。

「もう子どもはいらないと思っていた」の揺らぎ

もっとも個人的な言葉は、出産意向そのものに踏み込んだ生徒のものでした。

「自分は正直、もういい子どもはほしくないと思っていたけれど、実際に分娩にたずきさきるお医者さんや助産師さんのうまさをビデオを見たら、あんがい良い物なのかなと思いた」

「今の日本は、少子化で、赤ちゃんをうむことが、少なくなっているけれど、やっぱり命の誕生はお母さんにとってすてきなことだと感じました」

講義は「子どもを産むべき」というメッセージを押しつけていません。ただ、「少子化」という社会レベルの言葉と、自分自身の将来選択の言葉が、一人の生徒のなかで重なる瞬間が講義の直後に起きていることは、事実として言葉に残りました。

進路決定の重さを、少し緩める

もう一つ、3年生らしいと感じた感想がありました。

「助産師のキャリアで『こんな理由でもいいんだ』『気ままに生きることが道が開けることに繋がるのかな』と思い、印象に残った」

3年生は、「自分のキャリア選択はこれで合っているのか」という自問の只中にいます。キャリアの実例として語られる医療者の話が、「こんな理由でもいいんだ」という安心感を届けられたのは、知識伝達以上の効果でした。進路決定の重さを、少し緩めてあげる──3年生向けの講義に固有の余録だったかもしれません。

学年ごとに機能が違う

低学年向けの講義が「種をまく」仕事だとすれば、3年生向けの札幌南定時制2025はすでに発芽した芽に水をやるような仕事でした。札幌南定時制は2024年に続いて2025年も実施しました。継続して見えてきたのは、学年ごとに講義の機能が少しずつ違うという事実でした。