Our Research Project

研究プロジェクト

音で、未来の医療を変える。

研究リーダー:馬詰 武

札幌のKitaraというホールであった角野隼人さんのコンサートで、ラッキーなことに私はピアノの音をダイレクトに受ける席に座りました。その中で不思議な体験をしました。演奏中だけ、猛烈に咳が出そうになる――でも演奏が終わると、それがぴたりと止まるのです・・。素晴らしくて感動に浸りたいのに、演奏中は咳を我慢するのに必死で・・・。

この現象をきっかけに、私は「音」が身体に与える影響について、考えるようになりました。自律神経系だけでなく、もっと多くの生体機能が「音」に反応しているのではないか。そんな仮説を出発点に、私の研究は始まりました。

実は、音波はすでに科学の現場で使われています。たとえば、Thermo Fisher Scientific社のフローサイトメトリーという装置では、音波を使って粒子の流れをコントロールしています。最近では、ある種の音波を短時間浴びるだけで乗り物酔いを防ぐことができるという報告も出ています。

私の専門は、妊婦さんと胎児の健康を守る周産期医学です。この分野では、まだ治すことのできない病気が多くあります。そして、妊婦さんへの治療では「侵襲が少なく、胎児にも安全であること」が最も重要視されます。この点で、「音」は非常に有望な手段となり得るのです。

研究ステップ Roadmap

  1. 胎内音響環境の解明

    母体のお腹の上に医療用デジタル聴診器を当てて、胎児が日々聴いている音の世界を録音・分析しています。母体の心拍、呼吸、腸の音などが、妊娠週数とともにどのように変化していくかを多変量解析で調べています。生まれる前から音の世界に生きている赤ちゃんの環境を、客観的なデータで描きたいと考えています。

  2. 入院妊婦さんのストレスを「音」で和らげる

    切迫早産などで入院されている妊婦さんに、音楽を聴いていただきます。ストレスホルモンや心拍変動などを測定して、音楽がストレスを和らげる効果を検証しています。妊婦さんに使える、薬に頼らない方法を見つけたいと思っています。

  3. ハミングや歌で身体を整える

    ハミング(鼻歌)や歌唱は、声帯の振動と鼻腔共鳴を通して鼻の中の一酸化窒素(NO)を増やすことが知られています。一酸化窒素は血管を広げる作用があり、血圧や血流に影響します。健常な方を対象にハミングの効果を測定し、ゆくゆくは妊娠高血圧症候群の予防につなげたいと考えています。

  4. 看護師さんの対話形成を音で支援する

    若手看護師さんが患者さんと対話する場面で、音響的な介入が、対話の質や心理状態にどのような影響を与えるかを検証します。対人援助職の負担軽減と、患者さんへの質の高いケアの両立を目指したいと思っています。

  5. 分娩の痛みを音で和らげる

    分娩中の妊婦さんに音を聴いてもらうことで、痛みを和らげられないか検証します。北海道は麻酔科医が少なく、無痛分娩に対応するのが困難な状況が続いています。助産師さんや看護師さんによる非薬物的な鎮痛法として、地方の医療格差を埋める一歩にしたいと考えています。

機上から見た夜明けの富士山と海

誰もがアクセスできる「音」の力を利用する医療を目指しています。心身の健康を保つための新しい選択肢として、科学に基づいた音によるセルフケア技術を実現できたらと思います。

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