お腹の中で声と触覚はどう届いているのか、胎動は返事だった


外来で妊婦健診をしていると、「話しかけるとよく動くんです」「パートナーが触るとお腹を蹴り返してきます」という話をよく聞く。エコーで見ていてもそう感じる場面は多い。ただ、これまでは逸話として流していた。この論文は、胎児が母親の声や腹部への接触に対して行動レベルで反応することを示している。

英ダンディー大学のMarxとNagyは、合併症のない妊婦23人(在胎21〜33週、平均27.09週、SD 4.07。26週未満の中期10例、26週以降の後期13例)を対象に、母親の声(「三匹のこぶた」か「ジャックと豆の木」を、録音でなく母親自身が朗読)、腹部への接触(母親がいつものように手でさすったりこすったりする)、安静臥床(母親は手を体の横に置いて静かに横になる)の3条件を無作為な順序で与え、胎児の上半身と顔を4D超音波で記録した。各条件3分のうち最初の1分を、条件を知らない評価者がコマ送りで数え、腕・頭・口の動き、腕組み、自己接触、あくびの頻度を比べている。

触ると動き、声で静まる

腹部への接触で、胎児の腕・頭・口の動きが増えた。安静臥床との比較で有意だったのは腕の動きで(接触 6.26回/分、安静臥床 3.28回/分、p=.014)、頭と口は条件の主効果はあるものの、個別の比較では傾向にとどまる(頭は声条件との差が p=.061、口は安静臥床との差が p=.077)。

母親の声では腕・頭の動きが少なかった。接触条件との差は傾向レベル(腕 p=.074、頭 p=.061)で、安静臥床との差はない。著者らはこれを行動の静穏化(behavioural quieting)と呼び、新生児が母の声を聞いて落ち着く現象や、過去の研究で報告されている母の声で胎児心拍が下がる現象(定位反応、orienting response)と整合する反応だと位置づけている。

加えて、妊娠後期の胎児では中期に比べ、自己接触(手で自分の体や子宮壁に触れる)と腕組みが有意に多かった(p=.028、p=.029)。あくびは条件と週数の交互作用があった(p=.033)。

まとめると次のようになる。

  • 触覚刺激 → 腕の動きが有意に増え、頭・口も増える傾向
  • 母親の声 → 腕・頭の動きは安静臥床と同じで、接触条件より少ない傾向
  • 妊娠後期の胎児は中期より自己接触と腕組みが多い

胎児は外からの刺激に選択的に反応し、行動を能動的に調整している、というのが著者らの結論である。接触への反応は26週より前の中期から観察され、従来の報告より早い。母の声のときの静けさは無反応ではなく、心拍が下がる定位反応と対応する行動だと著者らは解釈している。

臨床で伝えるとき

  • お腹を触るとよく動く、というのは気のせいではない。胎児は触覚に応答して動きを増やす
  • 母親の声を聴いているときに胎動が静まるのは、無反応ではなく聴いている反応かもしれない。「話しかけたのに動きが減った」と心配する妊婦への説明の材料になる(ただし、この研究では声による減少は傾向にとどまる)
  • 妊娠中期(21週前後)からこの応答が観察される。後期には自己調整行動(自己接触・腕組み)も加わる
  • パートナーにとっては、そっと触れることが胎児の行動反応を引き出しやすい手段である

お腹を触ると動くけれど、話しかけると静かになる、という一見ちぐはぐな経験を、胎児発達の言葉で説明できる。赤ちゃんが母親の声に落ち着くのは、子宮越しに何ヶ月も続いてきたやりとりの続きなのだと思う。

参考文献
Marx V, Nagy E. Fetal behavioural responses to maternal voice and touch. PLoS ONE. 2015;10(6):e0129118. doi:10.1371/journal.pone.0129118