外来で「話しかけてあげてください」と言うことがある。胎児が母の声を聞いたときに心拍がどう変わるかを示した古典的な研究を紹介する。
Kisilevsky BSらのグループ(カナダ・クイーンズ大学と中国・浙江大学医学部付属女性病院)がPsychological Science 2003に報告した研究である。対象はterm(平均38.4±1.1週)の低リスク単胎60例。母親の声の録音(n=30)または知らない女性の声の録音(n=30)を、母体腹部から約10cm上のスピーカーで平均95 dB SPL、2分間再生し、その前後2分ずつの無音期間を含めて胎児心拍数と胎動を記録した。
心拍は上がる群と下がる群に分かれた
- 母の声を聞いた群:声の開始後およそ20秒で心拍数が約5 bpm上昇し、その上昇は記録終了(声の終了後2分)まで続いた
- 知らない女性の声を聞いた群:心拍数が約4 bpm低下し、同じく記録終了まで続いた
- 2群の差は刺激開始から26秒で有意になった
- 胎動には2群で差がなかった
新生児が母親の声を好むこと(DeCasper & Fifer 1980)は知られていたが、胎児でも心拍の変化として観察された。
何が効いているのか
同じ録音を両群に使っているので、群間の違いは、その声が胎児にとって馴染みのある声か初めての声か、だけである。経験が胎児の声の処理に影響している、というのが著者らの結論である。母の声を繰り返し聞くことで、胎児がその声に特有のプロソディ(韻律)を学習しているのではないか、と著者らは考察している。どの脳部位で起きているかは分からないが、脳幹だけでは説明がつかず、より上位の脳が関わっている可能性がある、とも書いている。
母の声を繰り返し聞くことで学習が進むという説明は、後のWebbら(2015)の聴覚野の厚みの報告や、MarxとNagy(2015)の胎動の報告とも矛盾しない。聴覚野の厚み、胎動、心拍と、別々の指標で母の声への胎児の応答が観察されている。
NSTの読み方に関わる
この結果はNST(ノンストレステスト、胎児心拍数モニタリング)の読み方にも関わると考えている。NSTでは胎児心拍の基線・変動・一過性頻脈と子宮収縮の関係を見るが、母親の声への反応は評価していない。NST中に母親が決まった文を話す時間を設け、その間の心拍の動きを記録してみる価値はあると思う。
臨床で伝えたいこと
- 胎児は生まれる前から母の声と他人の声を区別している。心拍の変化として測定できる
- 外来で「話しかけてあげてください」と言うことには根拠がある
- 音への胎児の反応は、いずれ胎児の状態を見る指標になりうると思う
分娩直後、母親の胸に乗せた赤ちゃんが母の声を聞いて落ち着くのは、子宮の中で何ヶ月も聞いてきた声だからである。